レビューした作品一覧全35件
コンキスタドールがエルドラードを追い求めて南米に足を踏み入れたとき、そこには高度に発達した文明を持つ、都市帝国が栄えていました。 そのうちの一つが、お話の舞台であるアステカ帝国。 人身御供の神事ばかりが取り沙汰されることもありますが、はたして彼等は、コンキスタドールの言うような『邪教の野蛮人』だったのでしょうか。 一方、メキシコに訪れたスペイン人は皆、文明の破壊者だけだったのでしょうか。 受け入れがたい現実に打ちのめされ、深い悲しみを抱きながらも、それぞれの命をまっとうする人々の姿に感動します。 悲劇で終わるのではない、丁寧に描かれた信頼や絆。 様々な交流、様々な愛の形。 壮観の歴史物語です。
恋も仕事も友情も
投稿日:2023年10月10日
恋も仕事も友情も。 まっすぐで健気で、努力家で、優しくて賢い女の子が頑張るお話。 そんな風に書けば、まるで現代を生きるタフな女性のためのスローガンのようだ。 あるいは、社会が理想とするロールモデル。 でも、そうじゃない。 このお話のヒロインは、確かに、まっすぐで、健気で、努力家で、優しくて、賢い。 トラブルに巻き込まれ、周囲の人々の助けを借りつつ、自身で道を切り開いていく。 ヒロインの等身大の姿は、単純なロールモデルなんかでは、決してない。 そして共感と好感の最高値を叩き出すのは、なにもヒロインだけじゃない。 ヒーローだけでもない。 登場する人々が皆生き生きと躍動感溢れ、息遣いまでも感じられる。 魅力的なキャラクター、それぞれの異なる生活、社会といった書き分けに加え、地質学の造詣を絡めた物語に、強い説得力がある。 頑張る女の子の、恋と仕事と友情のお話。 ぜひご一読ください。
かっこいい男というのは、こういう男のことを言うのだろう。 旅の戦士ドライオ。 確かな実力は、積み重ねてきた経験に裏打ちされ、たいていのことには軽々しく動じないし、泰然としている。 情はあるが、踏み込みすぎることはなく、己と他者の領分はしっかりと守り、だがお人好しで算段の甘いところもあって、損をしたりもする。 戦士らしくぶっきらぼうで口は悪いが、言葉の端には優しさと男の色気が滲み、無意識なのか殺し文句のような言葉まで飛び出る始末。 こんなにかっこいい男の物語に、はたして惚れずにいられるだろうか。 物語の語り口は、華美な装飾はせず、硬派でドライ。 だがユーモアも挟まれ、岩竜と対峙するシーンではハラハラと緊迫感で手に汗握る。 こんなにかっこいいファンタジーを読まずにいるのは、どう考えても、人生の損失じゃないだろうか。 旅の戦士ドライオ。 読めばわかる。 この男のカッコよさが。
レビュー作品 岩竜のねぐら
作品情報
呪われた王子。 しかも美青年。 そして野獣。 そこに美女も出てくる。 こりゃ美女と野獣的物語かな。 あらすじにも、おとぎ話風ってあるし。 なんかちょっと下品な感じ(って書いてある)の美女と野獣なんだろう。 きっと純愛物語なんだろう。 はたして読んだところ。 美女と野獣っぽさもあったかも。 純愛物語ではあったかも。 しかし今作の魅力は、それじゃない。 それだけじゃない。 古典や定番に期待する安心感だったり、純愛のトキメキも勿論ある。 あるけれど。 ぶっ飛んだキャラクター達と、軽妙な会話、笑い。 とにかく腹が痛い。 よじれるほどに笑う。 読みやすく引き込まれる文章で、あっという間に物語の世界へ。 笑いながら読み終えたあとは、とても幸せな気持ち。 読み返す度に元気をもらえる。 勢いのある、可愛くて、ちょっとエロくて、ぶっ飛んだラブコメがお好きな方、是非とも!
アンデルセンの『赤い靴』は、親切によって救われた少女が、その幸運にあぐらをかき、虚栄心と傲慢によって破滅した後、己の罪を悔い、最後には罪を許されるという童話だ。 今作『赤い靴』のヒロインもまた、虚栄心と厚顔無恥の象徴たる少女である。 だが彼女は生まれながらの王女。 親切を施され救われたわけではない。 親切にされて当然。 愛されて当然。 そこに何の疑問も生じるはずのない、あまりに無知な少女だった。 望むままにあらゆるものを与えられ、全てを手にしてきた王女。 だがその実、王女は何も与えられてこなかったに等しい。 王女は、見た目が美しいだけの人形だった。 いつまでも踊り続ける赤い靴を王女に履かせた魔術師。 王女の足を切断する騎士。 彼等との出会いによって、王女は少しずつ学んでいく。 その様は、時に残酷で、しかし温かく、美しい。 丁寧に紡がれる絆と赦し。 深い感動と幸福感に包まれる。
骨太ヒロインの骨太で逞しい半生と、朗らかな少女らしさ
投稿日:2022年7月25日 改稿日:2022年7月25日
ヒロインという呼称から思い浮かべる姿からは、年を重ねているかもしれない。 ヒロインという呼称から思い浮かべる姿からは、骨太かもしれない。 そう、骨太。 彼女は外見だけでなく、考え方も生き方も骨太でたくましく、賢く。 そして、とても恰好いい。 そんじょそこらのヒーローなど目ではない。 お姫様を守る乳母、それが本作のヒロイン。 だが、そこはやはりヒロイン。 朗らかで明るく、軽やかな魅力も併せ持つ。 彼女の目から見た世界は鮮やかで、美しい。 どんな苦境に立たされても奮い立つ、その姿勢はまさしくヒロインに相応しい。 生き生きと躍動感溢れる物語は、幼い頃夢中で読みふけった物語を思い出す。 胸の高鳴り、ときめき。 ページをめくる度に、彩り鮮やかな、夢と冒険の世界に誘われた。 今作はまさに、そんな少女の夢と冒険が詰まっている。 骨太ヒロインの軽やかで鮮やかで、そして骨太な物語。 ご堪能あれ。
世界を創造するのだ
投稿日:2022年7月23日
特殊な信念と偏執的な美学を貫く、高度に知的な犯罪について、またその犯罪者について、興味を惹かれたことはないだろうか。 サイコサスペンスの先駆けとなった映画『羊たちの沈黙』ハンニバル・レクターしかり。 そして、今シリーズのモデルであると著者が明かした、バッドマンシリーズのヴィランズの一人もまた。 彼らは知的で芸術的造詣が深く、穏やかで、紳士的で、普段は良識すら備えていることがある。 しかし自身の信ずる美学のためには、人の命を奪うことに、少しの躊躇いもない。 そこに矛盾は生じないし、狂っているつもりもない。 今作の主役、クリエイターはそんなヴィランである。 現実社会でこれらが行われれば、公序良俗には明らかに違反する行為だ。 しかし彼の――糾弾を恐れずに口にするならば――神聖な美学と信念に、嫌悪と畏怖を伴いながら、惹かれてしまう。 前日譚『牛の首』と共に、この禁断の魅惑を味わってほしい。
熱いロック魂が聞こえてくる!
投稿日:2022年7月8日 改稿日:2022年7月8日
主人公平治は、【演奏家】という唯一無二のスキルを持ちながらも、冒険パーティーのメンバーとしては実践的ではないという理由で、パーティーを追放される。 これからどう生計を立てるべきか。 突然人生の岐路に立たされた平治は、戸惑いながらも、目に入った馴染みの楽器屋に顔を出す。 初めて楽器に触れた。 初めて音を出した。 初めて曲を弾いた。 その初めてを、誰かが聞いてくれた。 そして。 その演奏を、心から楽しんでくれた。 平治の眼前に、新たな人生が開かれていく――。 私は楽器をやらない。 しかし音楽が好きだ。 そして音楽が好きな人間ならば、この作品を読んだとき。 魂を揺さぶられるような、そんな興奮を得るのではないだろうか。 物語は始まったばかり。 けれど主人公の興奮と感動が、魂を震わせる。 ロックが聞こえてくる。 音楽好き、そして映画好きの方に、ぜひとも読んでいただきたい物語です。
色、匂い、質量、手に触れた感覚。 すっきりと整った文章に浮かび上がる情景、その冒頭は、まさに自然の中の美しく懐かしい、幼少期の思い出、といった感。 郷愁や謎めくもの、秘されたものへの好奇心。 そういった感情を呼び起こされながら進んだ先に出会ったもの。 よかれと思って、為したこと。 そんなはずではなかった、という良心のせめぎ合いのような。 自分だけが知っている、自分の罪悪。 ふいに訪れる、いつまで消えない罪の意識、棘。 あなたにも覚えはありませんか。
レビュー作品
作品情報
恋する姿の可愛さよ
投稿日:2022年2月14日
小説投稿サイトに投稿する男と女。 二人はそれぞれ、投稿者として異なる立場にあった。 誰に読ませるつもりもない小説を投稿し、だけどポイントがゼロのまま動かないことに落ち込み始める男。 友人のために書き始めたのが、徐々に自分のために書くようになり、投稿仲間との交流を楽しんでいたが、嫌な感想で評価を受けることが怖くなってしまった女。 小説投稿サイトで出会った、その縁は実は――。 書き手として、投稿したことがあれば、共感するところはきっと多いはず。 その丁寧な心理描写は、それだけではなく、恋する姿(自覚のアリナシはあれど)の、なんと愛しいことか! ああ可愛い、なんて愛しいの。 そんな思いが拝読中、ずっと胸を占めます。 可愛い大人の、大人だからこそのじれったさ。 主人公の体の中に入ったかのような臨場感、ときめき。 読めばきっと、最高のチョコレート味わったような高揚感を得られます。
失敗と続いていく人生。
投稿日:2022年2月9日
ポップで明るく可愛いラブストーリー。 思わず吹き出してしまうような笑いも、キュンとするトキメキもある。 だけどそれだけじゃない。 失敗と挑戦。 甘酸っぱい青春物語に込められたメッセージ。 可愛らしいラブストーリーはハッピーエンドを迎える。 けれど、彼女達の物語はそこで終わらない。 人生は続いていく。 読みやすくテンポのよい文章によって呼び起こされるのは、色と温度と、音を伴う映像。 それらが読み手を物語の世界へ誘って、まるで脳みそがスクリーンになってしまったかのよう。 爽やかな青春映画を一本観終えたときの、清々しい気持ちになれます。
英雄だなんてごめんだね
投稿日:2022年1月20日 改稿日:2022年1月20日
少年モックは冒険者に憧れている。 なぜなら彼らは、未開拓地からあっと驚くような宝物を持って帰ってくるから。 人間の住まう場所とは異なる場所へと繰り出す。 なんて勇敢なんだろう。 見たこともないお宝を持ち帰ってくる。 なんてかっこいいんだろう。 一方で門番ウィードはただ門の前で立っているだけ。 なんて退屈そうなんだろう。 そこへ入ってこられるはずのない魔の者が町を襲う。 逃げ惑う人々。 門番ウィードの雄姿。 そして彼の言葉に痺れる。 でもそれだけじゃない。 開拓団とは? 魔の者とは? 歴史をさかのぼれば、たくさんの開拓があり、たくさんの先住民がいて、たくさんの文化や信仰があった。 「英雄だなんてごめんだね」 ウィードが守る対象は、きっと町の人間であり、その生活であり、そこにある文化なのだろう。 だが、ウィードの言葉は、重い。
 冒頭からとても切なくて、頑張りすぎてはじけ飛ぶ寸前のような、張り詰めたような、でも自分自身はそんなギリギリな場所に立っていることに無自覚なのか、故意的に無自覚でいるのか。  悔しい気持ちや、我慢や負担に思う気持ち。  見えているものと、見えないもの、見ないようにしているもの。  そんな危うい主人公の心理描写が一人称で、淡々と進みます。  そこに投下された起爆剤は、果たして何をもたらし、どう転がるのか。  主人公を取り巻く友人、妹、お母さん。  出てくる人たちみんな優しくて、温かくて。  それでも置かれた状況は、どうしたって万事オーケーというわけにはいかない。  いかないけれど。  温かくて、読み終えたあと、とてつもなく幸せになる、まさにプレゼントのような物語です。
落ちこぼれだと空から落とされたお星さま。 それは冬の季節、すっかり閉ざされた世界を退屈に過ごすターシャの世界を一変させる出会い。 お星さまに助けられたターシャ一家と、ターシャ一家の優しさと愛情に触れることで、ぴかぴかと光るお星さま。 傷ついた心を癒すのは、優しさと愛情だというのは定説ですが、いったいその定説とやらは、なかかなか目に見えるものではありませんし、また下心なく企てもなく実践することは難しく、たとえそれが為されても、拗ねきってしまった心には届かない。 双方が思いやり、素直に受け取り、与え合うこと。 信じること。 言葉では単純なことですが、実際、とても難しいことです。 けれどそれがなければ、愛し合うことはできない。 そしてきっと成長もない。 優しさに溢れ、綺麗な冬景色で広がる温かい世界が、そっとささやくように、愛することの大切さを教えてくれます。
雪の国には、即位したばかりの年若い女王がいる。 御年十六歳。 若い。若すぎる。 これを機に、と王家、ならびに国力を侮られてはたまらない。 女王の後ろ盾となりうる婿を。 王配を探さねば! 奮起した宰相は友好国に文を送り、それに応じた皇子達が雪の国に集う。 だがしかし、皇子達の目の前に現れた女王陛下の御姿は、驚くべきものだった――。 少し口の悪い、茶目っ気のあるヒーローと、健気なヒロイン。 二人がなんとも魅力的で愛らしく、いつまでもお幸せに、とほっこりします。 呪いがとけたあとの種明かしに、キュンとするラブストーリー。 雪の国という設定ならではの、透き通って幻想的なイメージ、また王子様お姫様のキラキラと華やかなイメージ。 文字を追うと浮かぶ景色が、とても綺麗です。 寒い冬に、可愛らしいハッピーエンドで温まりませんか?
こじんまりとした、チェーン展開された居酒屋ではない、ちょっと粋な居酒屋。 独り身で、呑兵衛で、酒や食事にちょっとだけうるさくて。 何より、『ほんのちょっとのお節介と無関心を、その場に応じて使い分けてくれる、日常の延長にある非日常スペース』を求めている人間ならば。 行きつけの飲み屋、というのを持っていたりするのではないだろうか。 行きつけ、とまで言い切らずとも、フラリとつい足が伸びてしまう。 そんな店を。 主人公は自然にカウンターの席につくくらい、馴染みの客だ。 そこで交わされる会話、カウンターの様子。 酒飲みには見慣れた景色や匂い、温度がありありと頭に浮かぶだろうし、馴染みのない人間もまた、ドラマや映画のワンシーンとして、日常を少し幻想的に彩った様子で浮かぶだろう。 こういった舞台で期待されるのは、人情噺だ。 そしてそれは裏切られない。 温かく、切なく。 冬の人情噺。 いいものだ。
幻想と現実の溶け込む世界
投稿日:2021年12月14日 改稿日:2021年12月15日
海に無数の唇が浮かんでいる。 そしてそれは、観光対象であり、また研究対象でもある。 単語だけ並べると、シュルレリスムギャグかな? もしくはファンタジーかな? と考えてしまった設定が、見事に日常と融合し、物語が進む。 1000文字というごく限られた文字数の中で、鮮やかに描きだされるのは、説得力のある不思議が違和感なく溶け込む日常。 そして魅力的な世界の構築、またそれを肯定するだけの物語ではない。 真摯に、誠実に相手と向き合い、交流すること。 研究対象だったから。 未知を切り開くという、開拓者精神に知的好奇心を掻き立てられたから。 きっと、それだけじゃなかった。
彼は夢の世界に住まう
投稿日:2021年12月13日 改稿日:2021年12月13日
深夜の国道を走る一台のスポーツカー。 運転手は深夜のドライブを楽しんでいた。 なんといっても、じっとりと不気味で、それでいて美しく鮮明な情景描写。 それこそが臨場感を醸し出し、文章を追いながら、この物語の行方はいったいどこへ辿り着くのだろう、とハラハラとさせられます。 高速道路の様子。 運転手の男。 助手席の彼女。 そしてインターの料金所で待ち構えていたパトカーに警察官。 さて、この物語の行方は――。 最後まで静かにじっとりと。 そしてじんわりと恐怖が迫る ひっそりと闇に包まれた世界に踏み入れた後、さて、同じ世界に住むはずの隣人は、果たして本当に同じ世界に住まうのだろうか。 そんなことが思い浮かんで、ぞっとするようなお話です。 1000文字の中に閉じ込められた「なにか」。 蓋をあけて、飛び出してくるもの。 ひたひたと余韻の残るホラーです。
死なないといけない気がするんだ
投稿日:2021年12月12日 改稿日:2021年12月13日
少年は飛びたかった。 だけど、出来なかった。 鳥と人と、僕。 死に取り憑かれてる――。 思春期だけに訪れる、特別なものなのかはわかりませんが、作者さまのお言葉をお借りして『文学少年少女あるある』な、あの感覚が、くっきりと浮かび上がります。 心の奥底に沈めていたはずの感覚が掘り起こされるのか。 今も継続的に続く捉えどころのない靄を指摘されるのか。 あなたはどちらでしょうか。 淡く美しく優しく、ゆるりと堕ちていく。 そんな心の音が聞こえてくる作品です。
レビュー作品 羽根のない僕
作品情報
深夜。 度重なる残業で疲れ切った主人公が帰宅すると、消し忘れたのか、部屋に明かりがついている。 帰宅途中、二次元の嫁で心を癒していた主人公。 一人暮らしである。 うわー、電気代勿体ねぇ。 それだけの感想で部屋に入ると、なんと目の前に広がる光景は――。 一人暮らしの男の元に訪れる、突然のコミカルな怪異。 え。 そこってホラ、ドジっこ美少女キャラとか、せめてゆるキャラとかさ……なんて、ツッコミは無粋だ。 無粋なのだ! なぜならそこからはもはや、ツッコミが追い付かないから! そして「あ……。確かに……」ともろもろ納得させられてしまうから! 美少女キャラ相手では気を許せない、息を抜けない、オタクトークのあんなことやこんなこと。 美少女キャラがおいでなさるより、主人公はずっと楽しめたに違いない。 きっと。 強がりなんかじゃないやい。
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